出家の日々(記録)

6月17日(月) 
『怒る技法』オーディオブック収録完了。

朗読の時は、ポッドキャスト(おしゃべり)のほうが簡単だと思い、ポッドキャストの時は、朗読のほうがやりやすいと感じる。

結局は何をやっても、難しいということか。だが難しいと思えるくらいのほうが、頭も使うし、努力もするし、めざすべきレベルが上にあるということだから、創造にとっては好ましいということなのだろう。

自分にとっては、達成感や満足が毎回残らないので、苦行としての色合いは消えないのだが。これが自分の業というものか。

お経も収録したいと申し出たが、あっさり却下されてしまった(^△^;)。


6月18日(火)
月に一度、名古屋へ。新しくオープンしたビルは、ホテル並みに豪勢で、お客さんも一杯。だが講師控室(コーヒーを飲めたし着替えもできた)がなくなってしまった。

こんなに立派な施設の大教室(上限80名)を使って、一人3000円弱の講座を開くのだから、スクールも経営が大変だ。なんとか貢献し続けねばと思う。

中日新聞の連載を読んで受講したという人たちも。自分で文章も絵も手がけることができるというのは、奇跡みたいなものだ。かつて中日新聞論説委員の人が書き下ろした『無 本当の強さとは何か』という本に蒙を啓かれたことがあったが、その中日新聞にささやかながら恩返しさせていただいている気分にもなる。


6月19日(水)
看護学校の講義。4月から始めて3か月目。医療倫理の事例にグループで取り組んでもらう。今回は腰痛、アデノイド肥大、気管挿管事例。かなり専門的な内容だが、人間としてどう向き合うかを、まだ知識がない一年生の段階で考えてもらう。たぶん日本でここだけのオリジナル。

グループの結論が出たら手が挙がるので見に行く。このスタイルは、頭を使うこと、互いの距離が近くなるだろうこと、講師と学生たちの距離を縮めることができる点で利点が多い。

1年生(平均20歳未満)は愛おしいが、一人一人を知る前に講義が終わってしまう。そこが毎年残念なところ。


6月21日(金)
1日空いたので、入江泰吉写真美術館へ。かつて父だった人が、奈良の古い景色を写した写真集を集めていた記憶がある。昭和初期のセピアの写真。奈良の街並みと人々の姿を覚えている。自分にとっても原風景みたいなものになっている。

景色も人もうつろいゆく。未来になれば世界の色がいっそうあざやかになるとは限らない。古色をそのまま残したほうが幸せを減らさずにすむ部分がある。奈良はまだたくさんの古色を残している土地だ。その古色の中に生きて、古色の中の鮮やかな色をよみがえらせて後世に遺す。

そうした営みをした先人たち――写真家、画家、作家たちのことを、ひとまず勉強しようと思う。そのうえで自分なりの古色の遺し方を探りたい。

この美術館には、古今東西にわたる膨大な写真集がある。どの本も圧倒的だ。圧倒的な写実と、圧倒的な量の時間が詰まっている。

写真とは本当に不思議なもので、動かない平面でしかないのだが、いろんな色や表情や動きや時間が閉じ込められている。見つめて、ほんの少し想像力を働かせると、表情が動き出し、乗り物が走り出し、世界が色づいて、たちまち三次元が立ち現れる。

実際にかつては、本当に動き、色づいていた世界がある。その世界に写真を通してどこまで入り込めるか、いわば時空を超えて旅できるかは、見る者の想像力や感性にかかっている。

臨時展示場で写真家のNさんと立ち話。今はレタッチで色を出せるとか。たしかにそうだろう。しかも合成すれば、どんな景色も作り出せる。写真を決定づけるものは何か。ひとつは素材。そして構図。色は、効果を持つ限りで意味を持つ。精緻もアバウトも、伝わるかどうかという一点においては、どちらが正解とは言いきれない。

結局は、何を伝えたいかという写す側の感性で決まる気はする。うまいか下手かではなく、何を伝えたいか、どのように伝えるか。結局は伝わるか。絵も文も同じだ。最後に決めるのは、創る者がその心に見ているもの。心そのものだ。


6月22日(土)
大阪で保健師さん向けの講演会。みんな看護師資格も持っておられるという。前半は業の話。後半は反応しない練習。動じないためには「足の裏が大事」(笑)。

業(ごう)は、今後必ず注目されるであろう最前線のテーマ。みなさん熱心に聞いてくださった印象。

話は難しくしても、あまり意味はない。むしろ応援の思いを最大限伝えることをめざしたほうがいい。今回言いそびれたが、保健師さんたちは、コロナ騒動中相当な負担を強いられたはずなのだ。だが、人を救いたくて日々奔走されている。相手は子供から高齢者まで。社会派のお坊さんに近いといっても遠くはあるまい。


100分はあっという間で、参加者の皆さんも同じ感想だったようだが、今後あらためて再会できればと伝える。「以上、足の裏とともにお届けいたしました!」(笑)。

どの場所においても同じだが、とにかく最後は明るくエールを送って締めようと思う。今回もそれができたので、自分としては満足・納得。また会えたらと願う。


新しくなった名古屋・栄中日文化センター

来年は夜間にお勤め帰りの人向けの生き方講座を開こうと計画中