一人分の種


生き方は、大きく三つあるのかもしれない。

土を前に何もしない生き方、

土をいっそう荒廃させる生き方、

土に種をまく生き方。


種をまき、花を咲かせる  

その営みの価値が見える人は、世に少なくないが、多くもない。


花の美しさがわかるというのは、人生観による。どう生きてきたか、何に価値を見るか。

土に種をまき花を咲かせた体験がなければ、花の美しさはわからないかもしれない。

花の美しさがわかることは、世の中での成功や豊かさにはつながらないし、

そもそも花の美しさがわかる人たちばかりでもない。むしろまったく逆を好む人たちも多いのかもしれない。

だから自分一人分の土に種をまき、花を咲かせることは、人によっては価値のない、むしろ淋しい営みに見えるかもしれない。


だが、荒れ果てた土地や焼け野原が広がりつつあるように見える世界にあって、

自分一人分の土に種をまき、花を咲かせることは、

小さな営みではあるが、それでも価値あることに違いあるまい。


花の美しさが見える者たちが、種をまく。


そうした人々の数だけ、この世界に花が咲く。



花を咲かせようという試みだけは、生きるかぎり止(や)めてはならない。


自分一人分の土を持て。

まけるだけの種をまけ。

咲いた花をもって、わが喜びとするのだ。



2024年七夕