某出版社の担当編集者Tさんが早期退職するという。突然の話。
西日暮里でお別れ会(?)をすることになった。
担当者が変わったら、本はよそ者になってしまうので、進行中の企画(十代の生き方・学び方)はいったんお蔵入りに。というより、版元を変えて出すことになった。
本づくりは、今の時代には割に合わない仕事だ。一生懸命書いて、編集して、校正かけて、デザイナーさんに凝ってもらって、印刷所の人たちの労力も介して、
あの厚くて重たい紙の本が出来上がる。それでも一冊1500円行くか行かないか。
90年代は、初版1万部が標準だった(それでも売れた)のに、今は4000部くらいで出して様子を見ることがほとんど。
本の原稿はライターさんが書くことも多いが(私の本は違うけれど)、今や本の数も印税率も下がっているから、著者だけでなくライターも食っていけなくなりつつあるのだとか。
出版業界が元気だったのは、80年代から90年代か。雑誌もムック本もよく売れた。だがパソコン(特にWindows)が登場して、スマホが登場して、プラットフォームが情報空間を寡占して、SNSや動画が普及するようになって、人々は本に手を出さなくなった。決定的な理由は「本を読むよりラクだから」だろうとは思う。
90年代は、カバーや帯も色校といって、何色か見本を出して、どっちがいいかなんて編集部内で話し合って、そのやりとりが楽しかったのに、今はそういう費用もかけないのだそうだ。表紙の次に来る色紙(厚めの画用紙みたいなページ)も、今はつけなくなっているとか。
雑誌やムックなんて、仕上げの段階では連日の徹夜だった。若い女性編集者も長髪で明かりを遮って、椅子を並べて簡易ベットにして寝ていたりした(寝起きは貞子状態)。
そんな時代もあったけれど、今は本も売ることが難しくなって、雑誌・ムックも廃刊が続いている。
Tさんの出版社では、社員の3分の1が早期退職に応じたのだそうだ。会社のカラーも影響しているようだけれど、「割に合わない」ことを実感している人がそれだけ多いということかもしれない。
二十代の頃、書き手ではなく、作り手として、出版業界の内部に”居候”していた時代がある。いろんな人たちがいた。作家もライターも編集者も出入りする人たちも、語弊があるかもしれないが、クセのある人たちが多かった。
本や雑誌を作るというのは、そういうクセのある人たち、闇を抱えた人たちにとっての溜まり場的な意味もあったように感じるけれど、この業界が小さくなっていったら、当時出会ったあの人たちは、どこで生きていくのだろうとふと思う。
世の中、世渡り上手な人ばかりではないだろう。その時代の風潮とかお金儲けの仕組みとか、そういうものに乗り切れない人だって、たくさんいる。
不器用でも、闇を抱えていても、クセがあっても、それなりにみんなが生きていける、そんな世の中であってほしいし、本に人生の時間を注いできた人たちが全員生き延びていける社会であってほしいと思う。難しいけれど。
「もののけ姫のテーマソングが聞こえてくる」という話になって、一緒に笑った。
次の仕事はまだ考えていないという。ゆっくり休んで、また新しい未来に歩んでゆかれることを願って手を振った。
春は別れの季節でもあった。
2025年4月25日