いつかはチョキン✂と


苦しみの原因は執着だ、とブッダは言ったけれども、これはかなり深い洞察に基づいた言葉です(まさにinsight:内側を見抜いた言葉)。

というのも、反応だけなら、いずれ消えるし、生きていくうえで反応は欠かせないものでもある。

(※たまに「反応しないなんてムリだ」と言う人もいる様子だけれど、本で伝えているのは「ムダな反応をしないこと」だ。本の冒頭で言っているのに・・伝えることは本当に難しい^^;)

業については、人生を丸ごと作る(支配する)くらいに強い力を持っているけれども、なぜ業が人生を支配するかといえば、執着してしまうからだ。

業を抜けて、自由を手にして、自分自身の(納得のいく)人生を生きるには、執着を切って捨てることが必要だし、それが始まりになる。


人がなぜ苦しみを背負うのか。苦労を重ねてしまうのか。

そこには、相矛盾する執着が潜んでいることが多い。

ちなみに苦労して家を支えるとか、苦労して子供を育てるというのは、自分で選んで納得して背負っているかぎりは、ここにいう執着ゆえの苦しみには当たらない。納得して頑張って生きている人たちは、尊き人たちだ。

ここで考えようとしているのは、慎重に選んでいるつもりが裏切られたり、うまく行かなかったりする場合。「なんで?」と自分でも首をかしげる事態に遭遇してしまう人のケース。

たいていは、親、子、結婚相手が絡んでいる。身近な人との間で苦労を背負う。

身近だからこそ重い。そして、報われない。

そうした日常の中を、暗中模索、五里霧中気分で生きて、いつの間にか報われない事故のような出来事に遭遇してしまう。

その出来事は、たいていは「外から」だ。事故のようにやってくる。だが不思議なことに、事故に自分から突っ込んでいっているかのような状況もある。

なんで?(なぜ私だけが?)と本音では首をかしげている。でも本人は殊勝に頑張り続けている。頑張れる体力がなぜかある。苦労を背負い続けて、心の体力だけはついているのかもしれない(それも限界があるけれど)。

なぜ望んでもいない苦労をいつの間にか背負ってしまうのか。

たいていは、執着が原因だ。しかも一つじゃない。二つ以上の執着。相矛盾する、ほんとは両立しない執着。

その執着を抱え続ける限り、人生を間違う。


一体自分は何に執着しているのか。どの執着を手放さなければいけないのか。

じっくり見つめて考える時間が必要だ。


それが、その人にとっての人生の転機。再生--人生のやり直し――の始まりになる。


どこで謎が解けるか、つまりは自己矛盾、二律背反の精神状態に気づけるかが、人生の分岐点になる。


最初の転機を迎えるのは、多くは三十代後半だ(※『心の出家』参照)。

しぶとく頑張って(執着して)いるうちに四十代に入る人も多い。

五十前後にもなれば、たいてい持ち前の業と、相矛盾する執着に取り憑かれて、「わけがわからない」状態になっている人もいる。

ブディズムという視点を通せば、なぜ自分の人生がかくもこんがらがってしまったのかは、ほとんど解き明かせる。

どんな迷走も混乱も、「必然」だったとわかる。その必然とは、執着が作り出すものだ。


その執着をほどくことができれば、矛盾、混乱は解消する。本来の自由な心、本人が「自分らしい」と思える自分を取り戻せる。

本当の人生は、そこから始まる。

執着さえ突き止めて、チョキン✂と切って捨てれば、人生をやり直すことは可能だ。おそらく何歳になっても。


今は熟年離婚も増えている。ひそかに「家出」する既婚女性もいる。逆に、振り回されて生き血を吸われてきたかのような夫が目を醒ますこともある。

本来、家とか子育てとか男女の仲とか、社会を未来につなぐために必要とされてきたもの、それはこれからも欠かせないはずのものが、崩れつつあるのが、今の日本かもしれない。

それはそれで痛ましい話ではあるのだが、間違った関係性を続けても、苦労が続くだけで、一人一人が病んでしまうから、

いったん関係性を解消して、自由を取り戻して、本当の生き方を一人一人がつかみ取って、できればその状態で未来につながる関係性をもう一度育てていく、という方角の方がよいだろうとは思う。

(人生は短すぎるから、解消するところまでで精一杯になることが多いけれど。でも始まらないよりは、まだそのほうがいいだろうとは思う。まずは自分らしい生き方をつかもうということだ)。


ともあれ、人生の迷走、混乱、行き止まりは、相矛盾する執着を抱え込んでしまった状態から来る。

その状態のままでは、まっすぐ進んでもなぜか事故る。そういうものだ。

何に執着しているのかをじっくり見つめて、答えを出すこと。

「これか」と突き止めて、チョキン✂と切除する。そうすれば、人生の病気は治る。何歳であっても治せる。


その希望だけは覚えておいてください。

頑張っているあなたに敬意を表します。


2024年11月中旬